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粉キュッヘ設立を決心した頃のお話

ちょうど4年前、2013年夏、独立を決心した頃に書かせていただいた原稿です。
石の上にも3年、3年の間に潰れてしまう会社の多い中、3年経ってスイスでの粉キュッヘの肉まんの知名度も上がってきました。じっくり着実に丁寧にがんばってます。

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前回は、現在の状態にどこか満足できていない自分について書きましたが、実は今、状況はうって変わって独立の準備で大忙しなんです。

 ことの始まりは、今秋に出版される「シュトレン本」に原稿を書くお仕事をいただいたことでした。その本の中で私の担当は、シュトレンに関する歴史や現在の状況まで、「シュトレンいろいろ」について調べて文章をまとめることでした。

 パン屋での仕事のない夜は、子供を寝かしつけてから参考書を読んだり、ネットでシュトレンについて調べる日々が一ヶ月以上続きました。

 また、マイスターコースでお世話になったヴァインハイムの校長がシュトレンで有名な方なので彼と連絡をとったり、更に彼にドレスデンのパン学校の先生を紹介してもらい、そこから更にドレスデナーシュトレン保護組合へと、シュトレンに関わる大御所の方々にメールでインタビューをすることができました。

 調べていくうちに、本場ドレスデンには、家庭でのシュトレン作りにおいて、とても面白い意外な伝統があることがわかりました。それについては、私の所属する婦人会のドレスデン支部の年配の方が思い出話を語ってくださったりと、このお仕事をさせてもらって、今まで自分がやってきたことや人脈が全て繋がったような、そして、協力してくれた方々の温かい思いを一つの原稿としてまとめられたような心から満足のいく仕事ができました。

 原稿のお仕事が終わってホッとゆっくりお風呂に入っていた時に、ふと思いついたんです。「今まで何度も独立をいろいろな方に提案されたけれど、パン屋は毎日新鮮なパンを焼かなければいけないし、一日お店に立っていただく販売員も雇わなければいけない、そして夕方売れ残ったものは全てロスだし、何よりスイスの物価の高さでは毎月の店舗の家賃が大きな負担で、それらのリスクを全部しょってやっていく勇気はない、と思っていたけれど、日持ちのするシュトレンだったら贈答用に一風変わったものが作れるのではないか?」と。私の住むツークは、さくらんぼで有名な町で、さくらんぼで作ったキルシュをたっぷり滲みこませた「ツーガー・キルシュトルテ」が名物です。ケーキにフォークを入れるたび、薫り高いキルシュの混ざったシロップがジュワーと染み出してくるほど入っていて、お酒好きな大人が好む味のケーキです。

 そこで、私はツーガー・キルシュトルテとは一風変わったツーク名物として、さくらんぼの入ったシュトレンを作ってはどうか?と考えました。私の故郷、日本は桜の花で有名な国で、ヨーロッパではまったく知られていませんが、桜の花を使った和菓子が沢山あります。桜の花の香りは、ドイツで夏の飲み物やアイスクリームの風味付けとして有名なヴァルトマイスターによく似ているので、受け入れられやすいと思います。桜の花のお酒で風味をつけて、桜の花のパウダーを混ぜた粉糖を振って、ツークと日本の融合したものにしよう!と思い立ちました。

 シュトレン本のためにシュトレン生地の応用はいろいろ勉強したところだったので、他にも沢山アイディアが浮かび、これで独立しよう!と決心したんです。独立するための会社設立は、家として住んでいる住所でできますが、作る場所は家とは別の場所を借りてやりたいと思いました。最初は高額な固定費を節約したいですし、私は仕事柄夜中に働くことには慣れています。営業が終わった後のレストランのキッチンをまた貸ししてくれるところを探すことにしました。

 何軒かあたって、あるホテルのキッチンを夜中に貸してもらえることになりました。キッチンを確保できたのが7月末で、その日のうちに大急ぎで今の職場の社長に退職願いを出し、9月末で退職できることになりました。

 独立を決めて、キッチンを探していた時に、私の話を聞いてくれた友人たちは口を揃えて、「独立するなら、ぜひ肉まんも作って」と言うのです。これは、私がこれまで何度かザンビアの孤児院のためのチャリティーバザーで出品したもので、おかげさまで、とても人気があるのです。最初は、ドイツでマイスター資格を取った私のプライドが邪魔して、「どうして皆、私が趣味で出した肉まんのことばっかり言うのかしら?私はドイツ仕込の技術を生かしたものが作りたいのに!」と思っていましたが、だんだん考え方が変わりました。「皆が求めているものから作ろう!ドイツ仕込のパンは、最終目標として取っておいて、軌道に乗ってから。」と。

 そこで、ホテルのキッチンを貸してくれる方にも、作りたいものが変わった旨をお話して了承を得た上、まずは中華まんや和菓子を販売することにしました。

 穀物や豆の粉から美味しいものを作るので、会社の名前はコナ・キュッヘ(独語でキッチンの意)です。スイス人やドイツ人にも発音しやすく覚えやすいネーミングにし、ドイツ在住の日本人デザイナーさんに、私の希望通り、穀物の穂と豆の絵のついた家紋風のロゴも作ってもらいました。

 肉まんは、趣味とは言え、今まで何度もバザーで出品している私のレシピがあります。これが受けることは、すでに分かっているので、大きな変更は必要ありません。ただし、スイスでやるからには、スイス人にも受け入れてもらえるように、材料に何が入っているのかクリアにして、まずは安心して買っていただかなければいけません。食べていただければ、美味しいことは分かっていただける自信があるので、最初のハードルを低くする必要があります。幸い、私はベルリンのビオのパン屋で修業をしてから、「地産地消」または環境のために有機の食材を使うことをもともと心がけています。私の商品にもそれは反映させたいので、材料はできるだけスイス産、スイス産が入手不可能なものは、ビオの食材を元に美味しい中華まんやお饅頭を作ります。

 突然決まった独立、十月スタートを前に、先日は毎年恒例のチャリティーバザーもありました。沢山用意した肉まんは、おかげさまであっと言う間に売り切れ、販売に関する問い合わせのメールもすでに沢山来ています。

 ベルリンでパンの修業を始めてからの14年間のお話を、ここ2年間連載させていただきました。独立決定ということで、ちょうど良い区切りとなりました。長い間読んでくださり、ありがとうございました。

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あれから4年が経とうとしています。
私が夫とともにヨーロッパにやってきてから、もうすぐ19年。
こんな人生になるなんて、当時夢にも思っていませんでした。



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by deutschebaeckerin | 2017-05-22 04:41 | コナ・キュッヘ | Comments(0)