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パラダイムシフト

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どんぐり説明会のあと、一週間弱の短期間ではありましたが、日本に緊急帰国しておりました。(写真は香港の空港でおかゆの朝食)

と言いますのも、父が肺がんの末期なのですが、緊急入院したとの連絡があったからでした。
家族にずーっとタバコの害について諭されながらも、肺気腫があっても絶対禁煙しなかった父ですので、この病気は自業自得、まあこの年まで好きなだけタバコを吸ったのだからしょうがないでしょう。というのが家族の考えです。割とあっさりしております。

さて、末期で緊急入院とのことですので、このままずっと病院ということになるのかも?と思われるかもしれませんが、父も私も考え方としては、どうせ治療のしようがないのであれば、病院でも家でもどこで残りの日々をすごしても同じではないか、それなら多少不便があっても、家で過ごしたい、過ごさせてあげたい、というものでした。

自身の出産以外では入院した経験のない母は、「こんなに毎日看護師さんが病室に来てくれていろいろしてくれる。病院は良いところ、先生に任せておけばいい。」という考えなので、もともと父と考え方の似ている私が帰っていろいろ段取りをする必要がありました。

さて、緊急入院する直前まで体になにもつけず自宅では二階の寝室で寝起きし、日中は一階のリビングで過ごしたりしていた父でしたが、病院のベッドでは酸素ボンベをつけ(肺がんで息が苦しいので、これはOK)、ブドウ糖と多少の電解質の入った薄い点滴を1日1.5リットルつけられて、入院以来10日間歩きもせず、車椅子でトイレに連れて行ってもらったりしているとのこと。顔色も非常に悪く、ぼんやりした印象でした。それを見ての私の直感は、「ここにいると、病人に仕立て上げられてしまう。早く出さねば。」でした。先生も看護師さんも善意でやってることなのでしょうが、結果として、自分の意思が薄くなる病人の出来上がり!という感じがしました。

さて、母と一緒に担当のお医者さんにきちんと、病院を出たい旨を伝えると、すぐに父本人ともそのことについて話してくれ、父も家に帰りたいという意思を伝えると、すぐに在宅医療に切り替えるためのサポートをしてくれる、病院勤務のソーシャルワーカーさんの女性が病室に来てくれました。

そこからは、彼女がとんとん拍子に訪問診療をしてくれる医師、家の近所のベテランの看護師さん、そして、それらの方々をオーガナイズしつつ母をサポートし、母の一番の相談役になるケアマネージャーさんを探してくれました。そして、私がスイスに戻ってきてからですが、レンタルの介護ベッドが一階和室に入り、酸素ボンベも家の広さにあったチューブをつけて設置され、外出用の携帯酸素ボンベもいただきました。払い続けていた高額の介護保険は、こういうところで使えます。実際、この介護ベッドもレンタル代は月額4000円だそうです。

さて、いろいろ段取りが決まってきたので、私と父で病院でも「帰宅して点滴をし続けるのは、交換等が面倒ですから、退院時にはなしになるように減らしてください」とはっきり伝えました。私も内容を見たところ、「ブドウ糖、電解質、あとは水」とわかりました。父もまだ経口摂取ができますので、正直点滴の必要性はそれほど感じません。止血剤も入っているものがあるとのことでしたが、父も「それは錠剤で取るからいいよ」と伝え、翌日から少しずつ減らして、退院の5日前にはとりあえず全くなしにしてもらうことに。もし、体調に問題があれば、病院にいる間に訂正することも可能ですし。そして、点滴をはずしたら、本人は身動きもとりやすくなり、実際のところ、顔色もよくなり、もっと元気になりました・・・・。

そして、昨日、無事に退院。一階に介護ベッドを用意したものの、本人は二階で寝たいといい、結局自分で階段も上がって(息はあがりますが、酸素チューブも二階まで届きますし)、自分のベッドで二階で眠れたと。病院では車椅子に乗せられていたのにうそみたいです。そして、今日は車に乗って、床屋さんで洗髪、散髪、髭剃りもしてもらったと。入院中は、家に帰ったら介護士さんに自宅でそてもらわなきゃーと話していたことです。

また、昨日は退院して家に戻ったところで、すぐに父の担当をしてくれるお医者さんも初めての往診をしてくださり、「病人らしくする必要はないので、寝る時以外はパジャマはやめた方がいいですよ。少し太った方がいいので、食べられるならお肉や高脂のものを食べた方がいい。」といわれたとかで、夜はステーキを少し、今日は散髪の帰りにおすし屋さんで、美味しいマグロのお刺身などを買って帰ってきたそうです。

父の場合は、がんが血管を突き破って突然死が訪れることもあるのですが、あのまま病院で体も心もどんどん弱って死んでいくということはなくなったようで本当に良かったと思います。

私も普段はスイスで時間がなくて本も読む暇もない毎日を過ごしていますが、単身での帰国だったもので、飛行機の中でも時間があったし、父を見舞う病室で一日中時間があったので、本をいろいろと読みました。私はもともと文学作品が大好きです。学生時代は日本の近代文学をかなり沢山読みました。(文学部ではありませんが。ただ単に趣味で読みました。)推理小説等は読んでる時には面白いですが、あとに心に残るものがなく、そこまで好きではありません。私にとっては、一種の一過性のエンターテイメントの一つですね。

宮本輝の「ここに地終わり海始まる」を機内で読んだのを皮切りに、父の病室にあった文芸春秋も2冊ぐらい読んでしまいました。宮本輝さん、さすがですね。いいなぁ、という表現力を沢山体験できました。最近、こどもの教育のことで「どんぐり理論」での表現力について、いろいろ考えていたところでしたので、やっぱり文学作品を生み出す作家の表現力の素晴らしさに感動を覚え、子供にはまずインプット、幼稚な表現力を鍛えてはいけない、とますますその思いを新たにしました。

文芸春秋には、最新の芥川賞受賞作「しんせかい」が全文掲載されているとのことで楽しみに読み始めたのですが、内容にはかなりがっかりしました・・・・。主人公の僕目線で物語が語られているから、朴訥な単純な言葉でしか表現がされていないのかもしれないですが、私にとっては、作者自身の表現力の欠如なのでは?という疑念が最後まで払われず、最後の数行で更にがっかり感は確固としたものになってしまいました。これが最優秀なのだったら、他のものは?該当なしでよかったのでは?と思いました。

それにしても文芸春秋の内容は多岐に渡ってて面白いですね。安楽死のことから東芝のことまで。大変面白かったです。よく考えたら、私の住むツークには東芝があるんだった、なんて思い出したり。

他には、文芸春秋の記事から近藤誠先生の本へも繋がってきて、彼の本も2冊読み、私の父の様子を見ての直感はかなり正しかったのだと思いました。パラダイムシフトという点では、私が昔、大怪我をした際にお世話になった、「新しい創傷治療」の夏井睦先生の湿潤療法、同じ夏井先生の糖質制限、近藤誠先生の「がんもどき理論」、教育においては糸山先生のどんぐり倶楽部のどんぐり理論、これらは全部私の中で正しいと腑に落ちるものばかりです。

夏井先生の更新履歴に、ある医師の近藤先生の理論に関するメールのコピーがありましたので、こちらに引用させていただきます。私の理解した内容と一致するものです。



新しい創傷治療更新履歴
http://www.wound-treatment.jp/title_new_2013-05.htm
2013年5月22日 6:00
 「近藤理論・糖質制限・湿潤治療」についてのメールです。
 「湿潤療法、糖質制限と、「がんもどき理論」は違う、という意見があり、一言申しあげたくメールいたしました。在宅での褥創治療(OPWT)、生活習慣病への糖質制限を行っております内科医です。

 私が医学部在籍中の96年、「患者よ、がんとたたかうな」は出版されました。ちょうど臨床実習の真っ只中だった私がどうしてこの本を手に取ったかよく分かりませんが、当時から癌医療について漠然と「これでいいのか?」と疑問を持っていたのでしょうか。内容はもはや言うまでもありませんが、シンプルで明快かつ衝撃的なものでした。なお近藤先生はその時点から現在まで理論は一貫しております。

 すなわち、癌診断においてゴールドスタンダードは病理診断とされているが、病理で癌と診断されたもののなかには本当の(生命を奪う)癌と、奪わない癌(これをがんもどきと名づけた)がある。どちらも病理診断では癌となる。しかしその差異は、生命を奪う癌は転移能力を持つ。
 そしてここが肝心ですが、転移能力を癌細胞が得るのは、医学検査で分かるサイズ(通常は数ミリ大以上)よりはるかに小さい段階である(これは原発巣と転移巣の大きさ、そして倍加速度から簡単に計算できます)。逆に大きくなっても転移能力のないものはそれ以後も転移能力は獲得しがたい。
 よって検査(検診含めて)で見つかった癌は、その時点で予後は既に決まっているのである。手術をしようが化学療法、放射線をしようが、転移能力があればすでに微小転移を起こしているから治らない(根治しない)、転移能力がなければある程度以上のサイズになり苦痛を伴う症状(消化管なら通過障害など)が出た時点で手術なりすればよい。
 もちろん検診にも意味はない。これだけの理論です。
 なお微小転移がある(かも知れない)から何もしない、ということでは決してなく、その場合もあくまで症状が出たら苦痛を取る処置なり考えればよいということです(昭和天皇の膵臓癌に対するバイパス手術などはよい手術です)。
 現在でもその理論は変わっていないはずです。

 衝撃を受けました。これは本当なのだろうかと。私はそのまま何となく、呼吸器内科(つまり肺癌の化学療法をする科)に入局しましたが、化学療法で苦しみながら死んでいく患者を目の当たりにして(2000年前後です)、その後は老人内科、そして現在の在宅医療と職場を変えました。
 近藤先生の理論は、現在でも全く正しいと思っております。(浜先生は当初は解熱剤による脳症など非常に意義深い発表をされていましたが、最近ではあらゆる薬を攻撃するようになり、ちょっとおかしいと思っております)。

 私は2004年ごろから褥創にラップ療法を開始し、約2年前からは糖質制限を患者にも勧めています。それらの治療に、理論も含めてすんなり得心して始めることができたのは、間違いなく近藤先生の影響です。私の中では、がんもどき理論→湿潤療法→糖質制限と、全て一貫して患者への利益を第一に考えた理論と思っています。だから信頼できる。

 おもしろいことに、癌検診については、疫学系の先生の研究では、だいたい効果なしあるいは効果不明(もちろん死亡を減らす効果)となり検診は不要という結果が多いのに対し、該当の臨床科の研究では有効性ありという結果がでるのが常です(前立腺癌のPSA検診、肺癌のCT検診など)。どちらも完全中立とはいえないでしょうが、インセンティブの点からは、疫学系の方がより中立に近いのではと思います。
 これら疫学系の研究は、もちろん近藤理論を補強するものと考えます。
 加えていうと、少ない経験からいうのはおこがましいですが、転移による症状は苦痛の多いものが多い気がします。骨転移、脳転移、肺転移、皮膚転移、腹膜播種...原発巣を取ってしまうと結局長い間、転移による症状に苦しめられることが多いのではと思います。

 近藤先生の理論は「癌は放っておけ」というだけだと勘違いされている方も多いかと思い、メールを送りましたが、決してそうではないです。
 実際、乳房温存手術、放射線治療を含めて乳癌への治療も行っています。あくまでこの患者にとって最も利益になることは何か、という観点からのみ考えているという点において、近藤先生の説は信頼できます。
 熱傷学会や糖尿病学会と同様、泌尿器科学会、呼吸器学会その他の癌を扱う学会にとって検診、手術、化学療法は飯の種ですから。」

 以上、まとまらず、長文で書いてしまいましたが、このような意見の医師もおります。



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by deutschebaeckerin | 2017-03-12 18:40 | 雑感 | Comments(0)